ニューズレター


2026.Aug vol.141

隣室の違法風俗店営業に伴う退去トラブル


不動産業界:2026.Aug vol.141掲載

テナント物件を賃貸しているのですが、学習塾を運営するテナントから「隣室が違法風俗店として摘発されたものの、退去を求める等の特段の対応がなく、営業への支障が続いたため退去する」と通知されました。

当該店舗が摘発された事実は認識していましたが、摘発後に看板が外されたことだけ確認し、退去を求める等の特段の対応をしていませんでした。

テナントからは管理不備に伴う損害賠償を求められており、原状回復費用も負担しないと言われています。この場合、賠償に応じなければいけないのでしょうか。

また、原状回復費用の負担をテナント側に求めることはできないのでしょうか。


賃貸人として果たすべき使用収益義務に違反したものとして、損害賠償責任を負う可能性があります。

一方で、原状回復義務は、使用収益義務違反の存否とは別個のものとして、本来的には賃借人が負うべき契約上の義務となります(民法第621条)。

もっとも、オーナー様が損害賠償責任を負うものと判断された場合には、最終的には当該債権と原状回復費用とが相殺される可能性があります。

さらに詳しく

賃貸借契約において、賃貸人は賃借人に対し、契約目的に従って賃貸目的物を使用収益させる義務(民法第601条)を負っています。これは単に鍵を渡して物件を貸すだけでなく、賃借人が平穏に物件を利用できる環境を維持する義務も含まれます。

もし、賃借人の物件使用に障害が生じている場合には、賃貸人は使用収益義務の下、その障害を除去しなければなりません。この義務に反して賃借人に損害を与えた場合、賃貸人に免責事由がない限り、賃貸人は賃借人に対して損害賠償責任を負います(民法第415条1項)。

本件において、オーナー様は、隣室のテナントが違法風俗店の営業を行っていることを認識しつつも、特段の対応までは行っていなかったと見受けられます。

学習塾を運営している賃借人の営業等に支障が生じる事態を把握しながら放置する行為は、使用収益義務を果たしていないと評価される可能性が否定できません。そのため、被害を受けたテナントからは「十分な対応をとらなかったために使用収益に妨げが生じた」として、使用収益義務違反に基づく損害賠償を請求される可能性がございます。

ただし、どのような損害が発生したかという点や、使用収益義務違反と損害との因果関係の存否については厳密な検討が必要です(例えば、生徒の減少は違法風俗店の存在が原因であったのか等)。

もっとも、オーナー様の対応不足が退去の原因であったとしても、賃借人が賃貸借契約上の原状回復義務を免れるわけではありません。賃借人は、賃貸借契約終了時に、自らに帰責事由が認められない場合を除き、その損傷を原状に復する義務を負います(民法第621条)。この原状回復義務は賃貸借契約上の独立した義務であり、使用収益義務とは別個のものです。

したがって、オーナー様に使用収益義務違反が認められたとしても、そのことのみをもって賃借人が原状回復義務を免れることにはならないと考えられます。そのため、テナント側には原則として原状回復費用を支払う義務があると判断される可能性が高いと思料いたします。

しかしながら、テナント側が主張する使用収益義務違反に基づく損害賠償責任がオーナー様に認められた場合、最終的にはテナント側の損害賠償請求権を自働債権、オーナー様側の原状回復費用を受働債権として、相殺(民法第505条1項)がなされることになろうかと存じます。

今回のような、隣室のテナントの違法行為の放置に起因する退去トラブルや損害賠償請求は、法的な因果関係の立証など、専門的な知識が求められる複雑な問題です。初期対応を誤ると、他のテナントの連鎖的な退去など、不動産経営に悪影響を及ぼす恐れがあります。テナントから損害賠償を請求された場合や、物件内での契約違反を把握した際は、当事者間での交渉がこじれる前に、不動産問題に強い弁護士へご相談ください。

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