ニューズレター


2014.Dec Vol.36

役職定年制導入に伴う 就業規則の変更の合理性を否定した事例~熊本地裁平成26年1月24日判決~


2014.12.vol.36掲載

Ⅰ 事案の概要

本件は、被告である信用金庫(以下、「Y社」といいます。)と労働契約を締結し、その後退職した原告Xらが、Y社が導入した役職定年制に伴う就業規則の変更(以下「本件就業規則の変更」といいます。)は無効であると主張し、Y社に対して、労働契約に基づき、役職定年制が適用されなかった場合の給与等と原告らに実際に支払われた給与等との差額の支払を求めた事案です。

Y社は、平成12年3月に就業規則を変更して、役職定年制を導入しました。当該役職定年制の概要は、①職員が、役職ごとに定められた役職定年年齢に到達した日以後に迎える人事異動時に役職から離れ、以後、「専門職」又は「専任職」と呼ばれる仕事に従事する、②役職定年時の職位に応じて、役職手当を専門職等手当として支給する、③役職定年後の給与の算定基準については、基本額を本人給、職能給、専門職等手当とし、基本額に支給調整率を乗じた額を給与とする、④③の支給調整率は、概要、55歳到達時以降、毎年10パーセントの割合で給与を削減され、結果60歳で定年を迎える際には、削減率が50パーセントになるというものでした。

本件においては、本件就業規則の変更の合理性の有無及びXらの個別の同意の有無が主要な争点となりましたが、結論としては、本件就業規則の変更に合理性はなく、Xらの一部については個別の同意がなかったと判断されたため、会社に対し、Xらの一部に対する差額給与等の支払が命じられています。

Ⅱ 熊本地裁平成26年1月24日判決

1 本件就業規則の変更の合理性について

本判決は、「賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」と述べたうえ、当該合理性の有無は、労働契約法第10条と同趣旨により、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきであるとしました。

そして、本件就業規則の変更における労働者の受ける不利益の程度は、給与等の削減幅が年10パーセントという大幅なものであり、かつY社の職員らが定年を迎える時点においては50パーセントにまで達するものであるため、「役職定年到達後の労働者らの生活設計を根本的に揺るがしうるほど大きなものである」と評価しました。

他方で、労働条件の変更の必要性の程度については、「本件就業規則の変更当時、Y社においては経済状況が継続的に悪化していく状況にあり、かつ他の信用金庫と比べて経費率が高く」、経費削減によって経営状況が改善されないと「将来において破綻の危険が具体的に生じるおそれがある」ことを認めながらも、「現実にY社の破綻等の危険が差し迫っているほど高度なものではない」と評価しました。また、本件就業規則の変更にあたり、Xらにおいて勤務を継続する以外の選択肢としての早期希望退職制度が設けられていないことなど、Xらが被る経済的な不利益性を実質的に緩和し得る代替措置が講じられていないこと等を指摘しました。

以上の考慮の結果、本判決は、本件就業規則の変更について「合理的なものであるとは認められない」と判断しました。

2 労働者の個別の同意の有無について

本件では、Xらの一部が本件役職定年制の導入に関して反対の意思を表明せずに変更後の給与等を受け取っていたことが、就業規則の変更に対する黙示的な同意にあたるかについても争われました。

本判決は、「労働条件を労働者に不利益に変更する内容でありかつ合理性がない就業規則の変更であっても、当該就業規則の変更について労働者の個別の同意がある場合には、当該労働者との間では就業規則の変更によって労働条件は有効に変更されると解される」ものの、労働者の同意は、「労働者の労働条件が不利益に変更されるという重大な効果を生じさせるものであるから、その同意の有無の認定については慎重な判断を要する」旨を述べました。

そのうえで、本判決は、Xらの一部が「本件就業規則の変更によって生じる不利益性について十分に認識した上で、自由な意思に基づき同意の意思を表明した場合に限って同意をしたことが認められるのであって、Xらの一部がその内容を理解しながら積極的に反対の意思を表明することなく変更後の給与等を受け取っていたことをもって、本件就業規則の変更について黙示的に同意をしたと認めることはできない」と判断しています。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないのが原則ですが(労働契約法9条本文)、その変更が「合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるもの」となります(同法9条ただし書、同法10条)。また、労働者の個別の同意があれば、当該労働者との間では有効に労働条件が変更されますが、本件裁判例では当該労働者の個別の同意の認定は慎重になすべき旨を述べています。

高年齢層の労働者の処遇に関わる人事制度をめぐっては、その給与削減の幅や会社における経済状況が重視されることが多いといえます。本件のように、不利益変更の合理性に関する争いが生じ、労働者から賃金差額の請求等がなされるリスクも生じ得ますので、人事制度を構築するにあたっては本件裁判例の示した基準を参考にして、慎重な設計をすることが肝要といえるでしょう。

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