ニューズレター


2018.Jul Vol.79

内部告発を理由とする授業等禁止・停職処分の有効性~岡山地裁平成29年3月29日判決~


2018.7.vol.79掲載

Ⅰ 事案の概要

1 本件は、被告大学Y1で教授として雇用されていたXが、内部告発をしたことを理由に停職3か月の懲戒処分をされたことについて、停職処分の無効確認、停職期間中の給与等の支払い、Y1らに対し不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

2 X は、平成5年4月から、Y1で教員を務め、当時、Y1の教授として Y1に雇用されていました。

平成25年2月26日、Xは、平成23年度、平成24年度入試の実技試験の採点において、センター試験の得点不良者を合格させないため実技試験の得点を低く訂正するよう指示され、Xがこれに従ったことなどを内容とする内部告発(以下、「本件内部告発」といいます。)を行いました。

本件内部告発を受け、平成25年3月18日、マスコミからX及び当時のY1の理事長Bへの取材が行われ、翌日にセンター試験の得点が悪い受験生を合格させないように1度採点していた実技試験の得点を低くなるように操作した疑いがある旨の報道がなされました。

その後、Y1では、外部委員を含む調査委員会を設置し、平成25年5月27日に、調査の結果、平成23年度、平成24年度の入試において、実技試験の得点を変更する操作が行われた事実はない旨の発表をしました。

調査委員会の調査結果をうけて、Y2(Y1の理事長)は、Xに対して、口頭で、しばらくの間、授業をしないこと及び学生の指導を行わないこと、教授会その他重要な会議に出席しないことを申し渡しましたが(以下、「本件授業等禁止命令」といいます。)、Xは、翌日、学生に対する授業・指導を行いました。

平成25年9月13日、Y2は、❶平成23年度、平成24年度入試において、実技試験の得点を低く変更する操作をした事実はなかったのに、これをマスコミに情報提供して、Y1の名誉・信用が失墜されたこと、❷平成24年度、平成25年度の実技試験の採点において、採点責任者による作品の並べ替えの終了宣言後にXが作品を移動したこと、❸授業等禁止命令に従わず、Xが学生に対する指導を行ったこと、の3点の非違行為があるとして、Xに対し、停職3か月とする懲戒処分を行いました(以下、「本件停職処分」といいます。)。

3 本件での主な争点は、①非違行為があるか、②非違行為がある場合に、本件停職処分は相当か、③本件停職処分や本件授業等禁止命令にかかる不法行為責任が成立するかです。

Ⅱ  判決のポイント

1 非違行為の有無

(1)非違行為❶について
Xの、本件内部告発をしたこと、本件内部告発をマスコミに情報提供した行為が、正当な行為と言える場合には、懲戒事由には当たらないため、この点が問題となりました。

本件では、調査委員会の調査の結果等より、入試の実技試験の得点を操作するような不適切な取り扱いがなされていた事実を認めることはできませんが、X自らが本件内部告発を行ったこと、Xが実際に目撃した事実は、原告の認識において、そのような得点操作が行われていたと疑うにたりるものであったことから、Xが内部告発及び情報提供をしたことは正当な行為であり、非違行為❶は懲戒事由とはならないと判断しました。

(2)非違行為❸について
本件授業等禁止命令は、本件情報提供が懲戒事由に該当する不当な行為であることを当然の前提として発せられていますが、上記 の通り本件情報提供は正当な行為と認められることから、非違行為❸も懲戒事由として認められない、と判断しました。

2 本件停職処分の相当性

Y1が本件停職処分の中核的な事由であるとする非違行為❶と❸が認められない以上、本件停職処分はその前提である処分事由の重要な部分を欠くものであるし、非違行為❷は、その前提となる作品移動の禁止というルールは書面等で厳格に定められていないことや、Xの作品移動によって採点業務に対する実質的な支障が生じた事情もないことから、それのみで停職3か月という本件停職処分の相当性を基礎づける事由といえず、非違行為❷の有無を検討するまでもなく、本件停職処分は違法、無効である、と判断しました。

3 本件停職処分や授業等禁止命令にかかる不法行為責任の成否

(1)本件停職処分にかかる責任について
Y1は、本件停職処分をするにあたり、調査委員会による調査と補充調査の2度にわたる調査を行っていること、その調査の過程や評価において、予断や偏見などに基づく不公正な手続、判断がなされたことをうかがわせるような証拠や事情は認められないことから、Y1の過失は認められず、不法行為は成立しない、と判断しました。

(2)授業等禁止命令にかかる責任について
Y2らは、上記の通り本件調査委員会により正当に行われた調査結果を踏まえて、Xに対して、授業等禁止命令を発したのであり、さらなる調査を尽くす必要性があったとまでは認められないことから、Y2らに過失は認められず、不法行為は成立しない、と判断しました。

Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項

本判決は、Xが情報提供した行為は、①告発内容が真実である、又は信じたことに相当な理由があること(内容の真実性)、だけでなく、②内部告発の目的が公益性を有するか、少なくとも不正な目的又は加害目的ではないこと(告発行為の目的)、③内部告発の手段・態様が相当であること(手段・態様の相当性)等を総合考慮したうえで、懲戒事由に該当しないとして、懲戒処分が違法、無効であると判断し ました。

内部告発など、会社の信用を棄損するおそれがある行為に対する懲戒処分の有効性等を判断するうえでは上記のような判断枠組みに従う裁判例が多いようです。

もっとも、本判決では、懲戒処分自体は無効であるとされたものの、調査委員会による調査を踏まえた判断をしていたといった事情から不法行為責任については否定されています。

しかしながら、内部告発制度は、公益のために企業等の組織の不正を内部から告発するものであり、内部告発者が告発された組織から報復的措置を取られないように保護される必要があります。

この観点から、公益通報者保護法が規定され、内部告発者の保護が図られていることからすれば、内部告発があった場合、十分な内部調査を経ることなく、内部告発者に対して、報復的な措置(解雇、職務停止、減給等)を取った場合、企業等の組織による不法行為として認定される可能性もあります。

そのため、企業等の立場からすると、内部告発がなされた場合、組織として十分な調査を行い、内部告発者との関係でもどのような措置を取るのか慎重に判断する必要があるといえます。

一方で、労働者の側からしても、内部告発によってマスコミ等が報道をすれば、企業の名誉や信用を落とす可能性が高いことから、労働契約において要請される信頼関係維持の観点から、ある程度使用者の不利益にも配慮する必要があると判示している判決もあります(富山地裁平成17年2月23日)。

すなわち、企業内部で適切な措置を講じる可能性が高いにもかかわらず、それを一切考慮せず、直ちに外部に告発をするなどしてしまった場合には、内部告発の正当性について慎重な判断がなされる可能性があります。

したがって、法的な問題が発生する以前の段階から内部告発がなされた場合には、組織としてどのような対応を取り、内部告発者に対してどのような措置を取るのかについて慎重に検討すべきといえます。

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