ニューズレター


2025.Nov vol.132

インターネット使用料が無料の物件でも、使用不能分の賃料は減額されるか


不動産業界:2025.Nov vol.132掲載

私が賃貸している物件の入居者から、リビングにインターネットの電波が届かず、仕事ができないため、インターネットを使用できない部分の賃料を減額してほしいとの要望がありました。私は、インターネット使用料を無料として当該物件を賃貸していることから、賃料の減額も生じないのではないかと疑問を持っています。

このような場合、賃料は減額されるのでしょうか。


賃料が減額される可能性は高いものと考えられます。

さらに詳しく

賃貸借契約において、賃貸目的物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合、その原因が賃借人の責めに帰することができないときは、使用収益が不能になった部分の割合に応じて賃料が当然に減額されます(民法611条1項)。

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)

第611条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

ただし、当然減額が認められるのは、社会通念上の受忍限度を超えて、賃貸目的物の通常の使用ができない場合などに限定されるものと解されています(国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集~賃借物の一部使用不能による賃料の減額等について~」3頁)。

インターネットが使用できない場合に、どの程度で社会通念上の受忍限度を超えるかについて明確な基準はありません。しかし、少なくとも、インターネットを使用することが通常想定される場所(例えば、リビング、ダイニング等)においてインターネットの電波が届かず使用できないのであれば、社会通念上の受忍限度を超え、賃貸目的物の通常の使用ができない場合に該当し、賃料の当然減額が認められる可能性があるものと考えられます。

したがって、リビングにインターネットの電波が届かず、インターネットが使用できない本件では、使用できない部分の割合に応じて賃料が当然減額される可能性が高いものと考えられます。

もっとも、本件のように、インターネット使用料が無料として賃貸されている場合、そもそも減額すべき賃料がないのではないかという疑問が湧くことも理解できます。

この点、国土交通省が公表している「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」では、エアコンやトイレ、風呂など、一般的に使用料が別個に定められていない付帯設備についても減額割合の目安が示されており、賃料の当然減額の対象とされています。

このことから、「インターネット使用料が無料」という表示は、賃借人にとって追加料金なしでインターネットを使用できるというメリットを強調するものにすぎず、実質的に「賃料の中にインターネット使用料が含まれている」と解釈される可能性が高く、賃料の当然減額の対象となるものと考えられます。

以上より、本件では、賃料は減額される可能性が高いものと考えられます。

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