ニューズレター


2014.Oct Vol.33

産休・育児短時間勤務申出に伴う降格・報酬の引き下げを人事権の濫用として無効とした裁判例~東京高裁平成23年12月27日判決~


2014.10.vol.33掲載

Ⅰ 事案の概要

1 Xは、ゲーム用ソフトウェアの製作・販売等を業とするY社に入社しました。Y社の人事制度では、基本的な業務内容・職責に応じて、従業員を所定の役割クラス(B、A等)とグレード(10~1、10が最上位)に格付けする「役割グレード制度」を採用しており、個々の従業員は、B‐1、A‐10のように格付けされています。賃金は、年俸制であり、①上記役割グレードに連動して決定される「役割報酬」と、②年俸査定期間の成績評価査定に基づいて決定される「成果報酬」で構成されていました(この他に③激変緩和措置としての「調整報酬」が支給されることもありました)。

2 Xの役割グレードはB‐1であり、法務知的財産本部ライセンス部において、海外ライセンス業務に従事していましたが、約8か月間、産前産後休業・育児休業を取得して休業した後、復職しました。また、Xは、復職後、Y社に対し、育児短時間勤務措置を申し出ました。

3 これに対し、Y社は、Xの担当職務を、難易度や業務負荷の程度が海外ライセンス業務より低いとされる国内ライセンス業務に変更(以下、本件担務変更といいます)し、これに伴い、Xの役割グレードをB‐1からA‐9に、「役割報酬」を550万円から500万円に、それぞれ引き下げたほか、平成20年度のXの成績評価をゼロとする査定に基づき、同21年度の「成果報酬」を不支給としました(ただし、激変緩和措置として「調整報酬」20万円が支給されました)。
この結果、Xの年棒は、休業前の総額640万円(役割報酬550万円+成果報酬90万円)から、休業後は、総額520万円(役割報酬500万円+成果報酬0円+調整給20万円)へ引き下げられたことになりました。

4 Xは、Y社に対し、これらの措置の違法・無効を主張し、減額前年棒との差額の賃金支払、不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴しました(なお、Xは、平成22年2月、Y社を退社しています)。

Ⅱ 主な争点

① 本件担務変更の適法性
② 役割グレード・役割報酬の引き下げの適法性
③ 成果報酬のゼロ査定の適法性

Ⅲ 東京高裁平成23年12月27日判決の要旨

①本件担務変更の適法性・有効性

本判決は、本件担務変更は配置転換に準ずるものであり、Y社就業規則を根拠とする、業務上の必要性に基づく人事権の行使として、不合理な点はなく、適法であると判断しました。

②役割グレード・役割報酬の引き下げの適法性

(1)第1審では、Y社の報酬制度自体は不合理なものではなく、Xに対する役割グレードの引下措置は、就業規則上も根拠があり、不合理でもないので適法である旨判断しました。そして、役割グレードの引下げに伴って役割報酬を引下げた点についても、人事権の濫用にはあたらず、適法である旨判断していました。

(2)しかしながら、本判決は、役割報酬の引き下げについて、「労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金額を不利益に変更するものであるから、就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく、使用者の一方的な行為によって行うことは許されない」と判断し、役割グレードの引き下げについても、「役割報酬の減額と連動するものである以上、同じく許されない」とした上、「それが担当職務の変更を伴うものであっても、人事権の濫用として許されない」と判断しました。

③成果報酬ゼロ査定の適法性

本判決は、Xは、年俸査定期間のうち育休取得前の約4か月間は業務に従事し、相応の実績を上げており、かかる事情は、査定上考慮すべき事項であるにもかかわらず、考慮されていなかったとして、成果報酬をゼロと査定したことは、査定に係る裁量権の濫用であり、違法である旨判断しました。

Ⅳ 本判決にみる実務における留意事項

1 本判決は、産休及び育休の取得のほか、とりわけ育児短時間勤務の申出に対する人事権の行使に関する問題についての判断であり、実務上留意すべき裁判例です。本判決の内容のうち、とりわけ上記争点②についての判断は、Y社の措置が賃金額を不利益に変更するものであることを強調して違法と判断しており、使用者側にとっては非常に厳しいものであると言えます。

2 この判決を踏まえ、使用者側はどう対応すべきでしょうか。
降格及びそれに伴う賃金の減少の根拠となる規定や理由を示す規定を就業規則や年俸規程に盛り込むことが考えられます。その場合には、当該規定が、妊娠・出産を理由とする「不利益な取り扱い」(男女雇用機会均等法9条3項)を定めた規定とならないように注意をする必要があります。
また、短時間勤務措置の求めに応じた場合であっても、短縮した時間以上の賃金を控除することが当然に正当化されるわけではないことに留意する必要があります。

3 なお、本件に類似の事例として、現在最高裁で審理中の事案で、広島市内の病院に勤務していた医学療法士の女性が、妊娠後に負担の軽い部署を希望し異動した際、副主任の職を解かれたことについて、病院に対し損害賠償を求めている事案があります。同事案は、1審2審ともに、女性側が敗訴したものの、先日最高裁で弁論が開かれたことから、2審までの判断を覆し、本判決と同趣旨の判断が示される可能性が高いですので、こちらにもご注目下さい(最高裁判決は平成26年10月23日予定です)。

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