解雇係争期間が有給休暇における出勤日数に算入されるべきとされた判例について~最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決~ニューズレター 2014.9.vol.31

Ⅰ 事案の概要

Xは、平成17年1月21日に、正社員としてY社に採用され、同日にY社と期限の定めのない雇用契約を締結しました。しかし、Y社は、Xを解雇(以下、「本件解雇」といいます。)したところ、Xは、本件解雇の無効等を主張し、Y社を相手に訴えを提起しました。その結果、解雇から約2年後に本件解雇は無効である旨の判決( 以下、「前訴判決」といいます。) が言い渡され、 XはY社の職場に復帰しました。

そして、復帰後、Xは、Y社に有給休暇届を提出して、合計5日間にわたって労務を提供しませんでした。しかし、Y社は有給休暇届をいずれも受理せず、右不就労日を全て欠勤扱いとし、給与を支給しませんでした。Xは、Y社に対し、年次有給休暇権を有することの確認、上記5日分の未払賃金及び遅延損害金の支払等を求め、提訴しました。

本件の最高裁における主な争点は、Xが本件解雇の効力を争っていた約2年間の係争期間( 以下、「本件係争期間」といいます。) が、出勤日数に算入され、有給休暇取得の要件である「全労働日」の8割を出勤していたと認められるか否かでした。

背景事情として、当時の行政解釈を示した通達においては、使用者の責めに帰すべき事由による不就労日については、「全労働日」に算入しないこととされていたため、当時の通達に従えば、本件係争期間は、XがY社による解雇が有効でないにもかかわらず、就労を拒まれていたために就労できなかったもので、使用者の責めに帰すべき事由による不就労日として「全労働日」に算入しなくてよいという状況がありました。そして、本件係争期間が、「全労働日」と認められない場合、「全労働日」が0日となってしまい、有給休暇取得の要件を満たさないことになります。

Ⅱ 最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決

東京高等裁判所は、本件係争期間は出勤日数に算入されるうえ、「全労働日」にもあたり、Xは同条項所定の有給休暇取得の要件を充足している旨判示し、最高裁は、右判断は正当として是認できると判示しました。

最高裁は、労働基準法39条1項、2項が、出勤日数が全労働日の8割未満である労働者に年次有給休暇を与えないとする趣旨について、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者を年次有給休暇付与の対象から除外することにあるとしました。この趣旨に鑑みると、労働者の責めに帰すべき事由によるといえない欠勤日は、「当事者間の衡平等の見地」から出勤日数に算入するのが相当でなく「全労働日」に含まれるべきでない例外はあるが、同条の出勤率の算定にあたって原則として出勤日数に算入すべきものとして「全労働日」に含まれると判断されました。

そして、前訴判決により本件解雇は無効であることが確定しており、本件係争期間を「当事者間の衡平の見地」からみると、出勤日数に算入し「全労働日」に算入すべきと判断され、Xは、年次有給休暇権の成立要件を満たしていることになりました。

結局のところ、有給休暇取得の要件である「全労働日」に該当するか否かについては、労働者の責めに帰すべき事由によらない場合は、原則として、「全労働日」に算入するが、「当事者間の衡平の見地」によって、例外的に除外するか否か判断するという枠組みが示されたということになります。

Ⅲ 本判決にみる実務における留意事項

1. 本判決を受けて、厚生労働省は「年次有給休暇算定の基礎となる労働日」と題する通達( 平成25年7月10日基発0710第3号) により、従来の行政解釈を改めました。 同通達には、労働者の責めに帰すべきとはいえない不就労日のうち、出勤日数に算入され、「全労働日」に含まれる不就労日として、①裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合や、②労働委員会による救済命令を受けて会社が解雇を取り消した場合の解雇日~復職日までの期間が例示されています。

他方、ⅰ不可抗力による休業日、ⅱ使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日、ⅲ正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日のように、当事者間の衡平の見地から出勤日数に算入するのが相当でない不就労日は、「全労働日」に含まれないとされています。

2. 解雇係争の末、解雇無効もしくは取消しにより労働者が復職した場合、本判決及び上記通達に従い、年次有給休暇を付与すべきなのはもちろんですが、ご紹介した事案においては、年次有給休暇権を認めなかった場合の使用者の責任も問題とされていました。

本判決第一審において、XはY社に対し年次有給休暇権を認めなかったことについて不法行為責任( 民法709条) を追及しましたが、Y社は当時の行政解釈等を参酌して年次有給休暇権取得を否定し、仮にXが年次有給休暇権を取得していたとしても時効消滅しているとの見解にたっていたことから、Y社の行為は不法行為上の違法性がないとして第一審裁判所はXの請求を棄却しました。なお、この点について、Xは控訴していません。

本判決以降の年次有給休暇権を認めない使用者の不法行為責任についてですが、Y社が「当時の行政解釈等を参酌」していたことに注目すべきでしょう。上記のとおり、本判決を受けた通達により労働基準法39条1項2項の解釈指針に改められている以上、他の事情にもよりますが不法行為責任が肯定されやすくなるのではないかと考えられます。

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