ニューズレター


2019.Nov vol.95

事前承認のない休日出勤中の事故後の解雇の適法性
~東京地裁平成29年12月15日判決~


2019.11.vol.95掲載

Ⅰ 事案の概要

本件は、被告である日本マイクロソフト株式会社(以下、「Y社」)と雇用契約を締結した原告(以下、「X」)が、Y社に対し、平成25年6月29日付解雇(以下、「本件解雇」)は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。
Xは、平成16年8月以降、プレミアムフィールドエンジニア(PFE)としてY社が契約する顧客企業に対し、Y社商品の製品サポート、技術セミナー・ワークショップの開発及び開催等、各種支援業務・サポート業務に従事してきました。
しかし、Xは、顧客から受けた質問が未回答となっており、未回答の2件の質問のうち1件については他に助けを求めたり、別の案件において、参加者から質問を受け、持ち帰ってから回答する約束をしたものの何ら回答を行わず、上司の指示を完全に無視する一方、自分に割り当てられなかった業務に自らも関与させるよう要求するメールを何通も送信していたりしました。
Xは業務改善していないとの理由で業務改善プログラムを課されたことから、業績評価の対象となる稼働率を上げようとし、その際、新規にエンジニアを割り当てる必要のない案件についても関与を求めて担当者に感情をぶつけたり、関与を断られた案件についても要求をし続けるなどしました。そのため、Xは、業務の割り当てに関する相談・依頼は電話等の対話的な手段で行うように指示を受けていましたが、その後もこの指示を無視して、関係者にメールを送信するなどを繰り返しました。
こうしたXの業務遂行上・勤務態度上の問題について、直属上長であるAなどは、注意指導を繰り返しました。その後、平成24年12月26日のミーティングの席上、A及びその上司であったL1は「勤務改善指導書」を交付したところ、Xはこれに対する言い分を記載した書面を提出しましたが、指摘事項の全てについて思い当たらない旨記載されていました。
そして、勤務改善指導書の交付後に担当した案件においても、Xが作成した作業スケジュール案に不備が多く顧客からクレームを受ける等があったため、2回目の「勤務改善指導書」の交付が行われましたが、2回目の指導書に対してXが提出した書面にも、指導事項について改善の意欲を示している部分はありませんでした。
その他、Y社では、残業や休日対応については事前承認が必要とされていたところ、Xは事前承認を得ることなく休日出勤したり、深夜又は早朝まで勤務したりしていました。
平成25年2月8日のミーティングにおいて、同月9日から11日までの三連休中にXが行う仕事の進捗について報告ミーティングを連休明けの12日に実施することが設定されていました。しかし、同月9日午後10時ごろ、Xは、Y社会社内の29階で転倒して左足を骨折する事故(以下、「本件事故」)に遭いました。
平成25年5月29日、Y社は、解雇予告通知書をもってXを解雇する旨を通知しました。解雇予告通知書によると、解雇事由は、「勤務態度が悪く、業務命令に従わない等、会社からの再三の注意、指導にも応えようとしないこと。また、その改善の見込みがないこと。」と記載されていました。

Ⅱ 日本マイクロソフト事件判決のポイント

1 本件の争点
本件では、①労災事故の有無②本件解雇の有効性の2点が争点となりました。

2 裁判所の判断内容
(1)①労災事故の有無について
本判決は、「本件事故の前日である平成25年2月8日に実施したミーティングでは、3連休明けの同月12日の週のスケジュールが話し合われ、Xには連休明けの同月12日(火)に提出すべき宿題が確認されたこと」を認めました。
そのうえで、「事前承認を得ずに勤務することの多いXが同月9日から同月11日までの間に宿題提出のために作業する事、すなわち休日出勤をすることは想像に難くなく、許容していたといえる。そうすると、Xは、業務遂行のためY社の支配下にある事業場で本件事故に遭ったと認められる」として業務起因性を認め、労災事故であると結論づけました。

(2)②本件解雇の有効性について
まず、業務上の負傷による休業中の解雇を制限している労働基準法19条1項の直接適用があるかどうかについて、裁判所は、本件事故があったとされる日からY社が本件解雇を通知し以後の就労を免除した日までの間において、Xは午前休や全休の取得を主張するものの、Xの主張する日は勤務実績があり、「休業の事実が認められない」ことから、労働基準法19条1項の解雇制限の適用はないとしました。
次に、Xの労働基準法19条1項の類推適用の主張、すなわち、形式的に休業していなかったとしても、身体的状態として本来欠勤して療養すべき健康状態にあったため、労働基準法19条1項の解雇規制が直接ないし類推適用されるとの主張に対して、裁判所は、「労働基準法はあくまで業務上の傷病の「療養のために休業する期間」の解雇の意思表示を禁止している規定であることは文理上明らかであるから、Xの上記主張は採用しない。」と判断しました。
最後に、本件解雇の有効性について、裁判所は、「Xは、Y社のPFEとして、Y社が契約する顧客企業に対し、Y社商品の製品サポート、技術セミナー・ワークショップの開発及び開催等、各種支援業務・サポート業務に従事しており、PFEは、その業務が、顧客企業に対し質問対応や情報提供などの各種支援業務・サポート業務を提供し、業務提供そのものに対して対価を得るという性質を有していたことから、特に期限の遵守やクオリティーの維持(問い合わせへの速やかな対応、品質維持のためのレビュー)が強く求められていた。」としてXが従事する業務の性質が高度専門職であることに言及したうえで、「Xは、稼働率を上げるため多くの仕事のアサインを得ることに固執し、その結果、Xの能力を超える仕事を抱えることになり」、対応の早さや品質維持の方策を怠る事態に至ったと指摘しました。
そして、「このような事態の最中にも、Xは、個別業務のアサインに関して、上長の指示命令等を無視して、仕事をアサインするようしつこく要求を繰り返す」などし、「関係者から注意を受けることが度々あった」うえ、「会議やEメールでのコミュニケーションにおいて、仕事をするTAM(注:テクニカルアカウントマネージャ)や同僚に、Xの職務をフォローする仕事を増加させたり、効率の悪い業務遂行を強いたりすることが多かった」とし、「そこで、Y社は、……「勤務改善指導書」を交付する等、再三にわたってXに対する注意指導を行ったが、XはY社が指摘した事項に該当する事態については思い当たらないとしており、Y社がいくつか具体的なエピソードを指摘して業務遂行上・勤務態度上につき重大な指摘を受けているにもかかわらず、Xからは反省の言がなく、Xにおいて上司等の教育指導に真摯に向き合っていないと言わざるを得ない」とし、「本件解雇は、……有効である」と結論付けました。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

1 留意事項の1つ目は、無断の休日出勤中の事故に関して業務起因性を認めた点です。本判決によれば、たとえ、無断の休日中の出勤であっても、会社側に休日出勤することを許容していたものと認められるような事情がある場合には、業務起因性が認められ、労働災害に該当することになります。

2 留意事項の2つ目は、Xに対する解雇が有効とされたわけですが、私が引用した事案の説明が長いことからも分かるように、Xの悪質な言動に纏わるエピソードが具体的でかつ多いことです。
本判決ではXの勤務態度の不良が継続的な教育・指導により改善しない状態にあったとされ、このことを理由として解雇は有効だと判断されています。これまでの裁判例では、上司の指導に反する、納期を無視する、仕事の精度が悪く再作業を発生させる、業務を未完了のまま放置する、長時間離席する等を理由に解雇が行われた三菱電機エンジニアリング事件(神戸地判平21.1.30労判984号74頁)や、顧客からの苦情・改善要求を受けたこと、残業削減指示を無視して残業を続けること、同僚に非礼な言動をしたことなど多岐に渡る理由により解雇が行われた日本ヒューレット・パッカード(解雇)事件(東京高判平25.3.21労判1073号5頁)がありますが、いずれの事例においても同様です。逆に言えば、従業員を解雇したいという場合には、本判決のように具体的なエピソードを数多く主張し、その主張を裏付ける証拠を残しておく必要があります。

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