ニューズレター


2025.Aug vol.129

迷惑行為を行う入居者との賃貸借契約解除について


不動産業界:2025.Aug vol.129掲載

私は、賃貸マンションのオーナーです。最近、複数の入居者から、「特定の入居者が大音量で音楽を流す上、日常的に奇声もあげるため、生活音に配慮するように申し入れたが、逆上してより一層大きな騒音を鳴らすようになった。このままでは住み続けることが出来ないのでどうにかして欲しい。」との申告が相次いでいます。実際に問題の入居者が入居している部屋の上下両隣の物件の入居者は、騒音が原因で退去してしまい、長期にわたり入居者がいない状態が続いています。オーナーとしてどのように対応するべきでしょうか。また、こちらとしては、問題の入居者には物件から退去して欲しいとも考えています。迷惑行為を原因として賃貸借契約を解除することは可能でしょうか。


賃貸借契約において、賃貸人は、賃貸目的物を使用収益させる義務を負っており、入居者による悪質な迷惑行為を放置することは、当該義務を怠ったものとして、問題の入居者以外の入居者から損害賠償を請求される可能性があります。そのため、賃貸人としては、問題の入居者に対して、騒音を生じさせないように注意喚起する等、適切な対応に努める義務があるといえます。

迷惑行為を理由として、賃貸借契約の解除が認められるかはケースバイケースですが、オーナー様からご提供いただいた情報を前提にすると、契約の解除が認められるものと判断される可能性はあると考えられます。

さらに詳しく

賃貸借契約において、賃貸人は、賃貸目的物を賃借人に使用収益させる義務を負っています(民法第601条)。

本件では、迷惑行為の被害を被っている入居者からすると、迷惑行為を行っている入居者(以下「相手方」といいます。)の行為によって物件の使用収益に支障が生じており、オーナー様に使用収益義務違反が認められてしまう可能性があります。いわゆる騒音によって物件の使用収益が妨げられたと評価されるには、一般人をして受忍限度を超える程度の騒音が発生していたものと認められる必要があります。

オーナー様からご提供いただいた情報を前提にすると、複数の入居者から居住を続けられない程度の騒音が発生しているとの申告がありますので、受忍限度を超える騒音が発生していたものと評価される可能性は高いと思料されます。そうしますと、状況を放置すると、迷惑行為の被害を被っている入居者から、使用収益義務違反に基づく損害賠償請求がなされる可能性も否定できません。

そのため、オーナー様としては、騒音に関する注意喚起文書のポスティングや、相手方に対して改善を依頼する等、適切な対応に努める必要があるといえるでしょう。

騒音等の迷惑行為を繰り返す入居者に対し、迷惑行為を理由として賃貸借契約を解除することも方法として考えられます。しかしながら、賃貸借契約の解除が認められるには、当事者間の信頼関係が破壊されたものと認められることが必要であり、迷惑行為の事実をもって直ちに契約解除が認められるかは、ケースバイケースとなります。

例えば、隣室の生活音がうるさい等と執拗に抗議を続け、挙句に隣室の玄関先に押し入って大声で抗議したり、自室と隣室の間の壁を叩く等の騒音を出したり、入口の扉を蹴飛ばしたりした入居者に対し、賃貸人が賃貸借契約の解除を行った事案があります。当該事案において、裁判所は、客観的にみて入居者側が主張する隣室の生活音は一般生活において受忍するべき程度のものである一方、他方で、入居者側の行動は共同生活上の秩序を乱すもので解除事由に該当するものと判断しました。その上で、本事案においては、入居者側の迷惑行為によって入居者の両隣の隣室が空室の状態が継続し、逸失賃料が生じていたことも加味して、当事者間の信頼関係は破壊されたものと判断し、賃貸借契約の解除を認めました(東京地判平成10年5月12日)。

本件は、上記裁判例と事案が類似した部分があり、賃貸借契約の解除が認められる余地があるものと考えられます。もっとも、前述のとおり、契約解除が認められるかはケースバイケースとなりますので、入居者の迷惑行為によるトラブルが生じた際には是非弁護士にご相談ください。

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