ニューズレター


2018.Feb Vol.39

自力救済特約に基づき明渡しを強行することの適法性


不動産業界:2018.2.vol.39掲載

5ヶ月分の家賃を滞納した入居者がいたので賃貸借契約を解除したのですが、その入居者は今も建物に居座り続けている状況です。腹が立ちましたので、留守中に部屋に入って荷物を処分したうえで、鍵を取り替えてしまおうと思っています。私は建物の所有者ですし、既に契約は解除していますので、特に問題はありませんよね。


そのような行為は「自力救済」にあたりますので絶対にダメです。お気持ちは分かるのですが、あなたが適法に権利の回復を図るためには、裁判を提起して判決を取得したうえで、強制執行手続をすることが不可欠です。

さらに詳しく

賃貸借契約終了後も賃借人が明渡しを実行しないような場合、室内に勝手に立ち入ったうえで荷物を処分してしまうなど、賃貸人が自力で紛争を解決すること(=自力救済)は許されるでしょうか。

これについては、最高裁昭和40年12月7日判決が、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない」と判示していますので、その答えとしては、「原則として自力救済は禁止であるが、他に選び得る手段がないほどの緊急性・必要性が認められる例外的状況に限って許される」ということになります。

それでは、「賃借人が明渡しを実行しない場合、賃貸人は、開錠のうえ室内に立ち入り、自由に室内の動産を処分することができるものとし、賃借人は、これに対して一切の異議を述べることができない」というような、自力救済を許容する内容の特約(以下「自力救済特約」といいます。)が賃貸借契約に付されていた場合はどうでしょうか。

この点、私的自治の原則(私人間の法律関係は私人間で自由に形成できること)に照らせば、相互の合意に基づくものとして、賃貸人は適法に自力救済をすることができるようにも思えます。しかし、自力救済が原則として禁止されている趣旨は、社会秩序の維持という公益を実現することにある訳ですから、他に選び得る手段がないほどの緊急性・必要性が認められない状況において自力救済を認める内容で自力救済特約を定めていようとも、それは公序良俗違反となり、特約自体が無効になるか、あるいは他に選び得る手段がないほどの緊急性・必要性が認められる例外的な事情がない状況で適用するときには無効になるものと考えられています(参考裁判例:東京地裁平成18年5月30日判決)。

以上のとおり、自力救済特約がない場合はもちろんのこと、それが定められている場合であろうとも、原則として自力救済は許されませんので注意しなければなりません。なお、自力救済が許されない状況においてこれを強行した場合、賃貸人は、賃借人に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う場合があるのみならず、住居侵入等の刑事責任を負う場合もあります。

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