ニューズレター


2017.Aug Vol.33

賃料増額請求について


不動産業界:2017.8.vol.33掲載

マンションの賃貸経営をしているのだけど、この間ちらっと不動産屋の窓に張られている賃貸広告を見たら、私のマンションと同じようなマンションの賃料が私のよりも3万円も高く貸しに出されていたの。不動産屋に聞いたら、「人気物件なのですぐに借り手は見つかりますよ。」と言われちゃったわ。私のマンションはもう長いこと賃料を据え置いたままだったから、すぐに管理とかを全部任せているA不動産屋に相談にいって、私のアパートの賃料ももっと上げて頂戴って頼んだのだけれど、A不動産屋ったらなぜか乗り気じゃないのよ。賃料の増額ってなかなか難しいのかしら?


借地借家法32条に基づき、入居者に対し賃料の増額を請求することができます。ただし、その請求が認められるためには、種々の事情を考慮した上で、現賃料が不相当といえる必要があります。実際に賃貸人の希望通りに賃料増額が実現できる場面はあまり多くはありません。専門家に依頼する際には、費用倒れにならないか慎重に検討しましょう。

さらに詳しく

1 賃料増額請求について

借地借家法32条1項は、①租税その他負担の増額、②物件の価格の上昇その他の経済事情の変動、③近隣の建物の賃料との比較などの事情を総合考慮し、現賃料が不相当となったときには、賃料の増額請求ができると定められています。ただし、賃貸借契約の中に、「一定の期間は賃料を増額しない」という特約がある場合には、その期間中賃料の増額を請求することはできません。

①~③の事情を総合考慮した結果、賃料の増額が相当と判断できる場合、賃貸人から賃借人に対し賃料増額の意思表示をします。そして、この意思表示が賃借人に到達した時点で、賃料増額の効果が発生します(なお、この意思表示が到達した段階を明確にするため、通常は、配達証明付の内容証明郵便で意思表示をします)。

賃借人は、この増額請求に納得しない場合、増額を正当とする裁判が確定するまでの間、自身が相当と認める額の賃料を払うことができます。ただし、後に増額が相当という裁判が確定した場合、賃借人は、賃貸人からの増額の意思表示が到達した時点に遡って、確定した増額賃料との差額分に年10%の利息を付した金額を支払わなければなりません。

2 増額を求める具体的な流れ

上述①~③の事情を総合的に考慮し、現賃料が不相当であるか否かを判断するわけですが、賃料増額を求める具体的な流れとしては、まず賃借人との間で、増額の協議をすることから始まります。賃借人と協議を実施するタイミングですが、更新時に行うべきでしょう。賃借人が増額に納得しやすいタイミングだからです。

この協議がまとまらない場合、賃貸人としては、裁判所に賃料増額の調停を求めることになります。いきなり訴訟を提起することはできず、まず裁判所という公的な場でお話合いをしましょうということです(調停前置主義)。調停においては、現賃料の不相当性を判断するために、不動産鑑定士による鑑定が行われることが一般的です。不動産鑑定士は、近隣の賃料相場などについての意見書を提出し、その意見書に沿った形で、現賃料が不相当かどうかを調停員が判断し、当事者を説得します。

この調停においても話合いがまとまらない場合には、最後に賃料増額の訴訟を提起することになります。訴訟では、賃貸人が、現賃料がいかに不相当であり、相当賃料と乖離しているかという点を、客観的証拠によって立証しなければなりません。

実際のところ、裁判まで行う場合、弁護士費用や鑑定費用がかさみ、賃貸人の希望通りの賃料増額を実現しても費用倒れに終わるおそれがあります。そのため、賃料増額を請求する際には、事前に念入りに調査、検討する必要があります。

今回のご質問者様のようにならないために、日ごろから自分のマンションの賃料が適切か否か注意を払い、新規入居者との契約時に適切な賃料で賃貸できるようにしましょう。これが結局のところ、もっとも利益を生む最善の方法と考えられます。

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