過重労働対策の現在ニューズレター 2017.4.特別号掲載

1.「過重労働」とは

平成27年12月、大手広告代理店の社員が長時間労働(鬱病発症前1ヶ月の残業時間が105時間に達したと認定されています。)を原因として自殺したという事件を契機として、現在、我が国では、労働者の「過重労働」問題への対策が急ピッチで進められています。「過重労働」とは法律上の用語ではありませんが、「労働者の心身の健康を害する程の長時間労働」という意義でとらえられることが多いようです。

2.我が国における時間外労働のルールと現状

我が国では、労働基準法において、使用者が遵守すべき労働時間等についての基準が定められており、法定あるいは所定の労働時間を超えた時間の労働(いわゆる残業)をさせる場合には、労働者と使用者の間で労使協定(「36協定」)を結び、所轄の労働基準監督署長へ届け出ることが義務付けられています。36協定を締結せずに残業を命じた場合には、刑罰(法定刑は 6ヶ月以下の懲役又は 30万円以下の罰金)の対象となり得る違法行為という扱いとなります。

一方、36協定が締結された場合でも、無制限に残業を命じてよいわけではありません。36協定の中で定めた上限時間を超過する残業を命じた場合には、やはり労働基準法違反となり、上記の罰則の対象になり得ます。そして、残業の上限設定に際しては、厚生労働省が「時間外労働の限度に関する基準」(以下、「基準」といいます。)を定めています。基準によれば、残業は、原則として、月45時間、年360時間を超えない範囲で行なわせなければならないとされています。

しかし、現行の基準は、残業時間の上限を法的に義務づけるものではなく、残業時間の上限についての政府見解(ガイドライン)を示したものにすぎません。そのため、労使間において、基準で示した上限を超えた内容で(例えば、月80時間までとして)協定を結んだ場合、その範囲内で残業が命じられているということであれば、協定を提出した労働基準監督署から基準の範囲内に収めるように指導等がされることはあっても、これをもって違法(ひいては、罰則の対象)とすることはできません。

また、基準においても、特別の事情がある場合、年6 回までに限り、残業時間上限を超えた残業を命じることができるとされており(特別条項付協定)、この場合の上限目安(月60時間、年420時間)を超える協定についても、違反が即違法(罰則対象)になるという効力までは認められていません。

そのため、これまでは、特にいわゆる「過労死」(長時間労働を根拠として発症する疾病に基づく死亡事故)を根拠とした労災認定ひいてはこれに基づく民事上の損害賠償請求訴訟の中において、過重労働についての一定の基準が形成されてきたものと考えられます。現在では、労災の認定基準を参考に、脳・心疾患の場合には、直近 1ヶ月の残業時間が 100時間を超えていた場合、あるいは、直近半年間の残業時間が 80時間から 100時間程度となっていた場合に、精神疾患の場合には、発病直前の 2ヶ月間連続して 120時間以上の時間外労働、あるいは、3ヶ月間連続して 100時間以上の時間外労働を行った場合(通常の出来事の場合)、死亡事故と長時間労働の間の因果関係を認められる傾向にあります。

3.「過重労働」問題への近時の対策

政府は、このような状況を改善し、そもそもとして過労死(自殺含む。)が発生しないようにするべく、改善のための政策を進めています。

まず、違法残業の実態把握のため、平成28年4月からの半年間において、労働時間の実態把握のため、全国10059の事業場に対して重点監督を実施しました。平成29年1月17 日付で公表された同調査の結果においては、違法な時間外・休日労働があったと認められた事業場が43.9%にも及び、そのうちの78.1%にあたる3450もの事業場において、最長月80時間超の残業を行った従業員が存在するというデータが示されています。過労死の原因となりうる長時間労働が横行している現状が明らかとなりました。

これを受け、厚生労働省は、平成28年12月26 日付で、「『過労死等ゼロ』緊急対策」を公表し、今後政府が行う対策の全体像を示しました。

その後、まず、平成29年1月20 日、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が発せられ、使用者として、労働者の労働時間を適切に把握できるような体制を整えるための基準が示されました。当該基準も、あくまでガイドラインであるため、遵守すべき義務や、違反に対して罰則を科すものではありませんが、行政における指針として用いられることが想定されるため、企業としてもガイドラインに即した対応が求められることになると考えられます。

一方、上記重点監督と併せて、厚生労働省が平成27年4月に東京と大阪の労働局に設置した「過重労働撲滅特別対策班」(通称「かとく」)の重点監督対象企業が、平成28年4月1 日以後、従来の残業時間月100時間超企業から月80時間超企業にまで拡大するとの発表がされたほか、「かとく」と同等の監督指導等を専門に担当する管理官を、各都道府県労働局に設置する方針であるとされています。

また、行政による是正のための指導等に実行力を持たせるべく、平成27年以後行われている違法な長時間労働が行われている企業の公表制度が強化されることになりました。具体的には、①月80時間超の違法な残業を行わせているか、労災支給決定の原因となる長時間労働を行わせている事業場が2以上存在する企業に対して、その本社に指導を実施し、それでも是正がされない場合、または、②月100時間超の違法残業を行わせているか、過労死(自殺含む。)の発生が2事業場以上存在する場合に、企業名の公表が可能となるようです。

さらに、今後、基準で示されている残業時間上限に法的な拘束力を持たせる内容で法改正をする動きが出ています。現在、主として、経済界側と、罰則対象となる残業上限時間を何時間とするか、その具体的な施行時期等について協議をしている模様です。

4.まとめ 「過重労働」対策の重要性

使用者には、労働者に対する安全配慮義務が定められており、過重労働によって労働者の心身の健康が損なわれないよう配慮しなければなりません。

今後、ますます規制が厳しくなっていくことが想定される現在において、いわゆる「ブラック企業」との烙印を押されることを防ぎ、賠償リスクやレピュテーションリスクを回避するためには、法令や関係する通達等についての動向の迅速な把握と確認が不可欠になるものと考えられます。

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