ニューズレター


2026.Mar vol.136

転借人が居室の修繕に支出した費用について、原契約の賃貸人は責任を負うか


不動産業界:2026.Mar vol.136掲載

私はアパートを所有しており、その全部を一括借上契約により会社Xに賃貸しています。会社Xは、アパートの一室を入居者Yに転貸しています。

あるとき、Yの居室でトイレの排水不良が起き、Yは会社Xに電話してもつながらなかったことから、自身で業者を呼んで修繕をしました。

会社Xが修繕をしていればもう少し修繕費用は安く済んだのではないかと思っているのですが、このような場合に、私が当該修繕費用の一部又は全部について負担する必要があるのでしょうか。


Yと直接の契約関係にはないものの、会社Xとの賃貸借契約に基づき、Yの支出した費用の一部又は全部について費用負担しなくてはならない可能性が高いものと考えます。

もっとも、アパートの所有者と会社Xの間の賃貸借契約で修繕費用の負担等について特別の取り決めをしている場合もあるため、ご確認ください。

さらに詳しく

1.賃貸借契約上の責任の所在

アパートの所有者は入居者Yと賃貸借契約を結んでいるわけではないことから、Yに対して直接義務を負わないため、特段の事情がない限りアパートの所有者はYに対して修繕費用の支払責任を直接負わないものと考えられます。

もっとも、会社XはYとの賃貸借契約に基づいてYに対して原則として修繕義務(民法606条1項本文)を負います。そのため、Yの居室で現実にトイレの排水不良が生じており、居室内を通常どおり使用することが困難になっていると判断された場合には、アパートの所有者は会社Xと賃貸借契約を結んでいることから、当該賃貸借契約に基づき、会社XがYの居室の修繕のために要した費用のうち相当額を会社Xに対して支払わなくてはならない可能性が高いものと考えます(必要費。民法608条1項)。

2.費用負担の範囲

前記の必要費について、アパートの所有者が負担しなくてはならないのは「賃貸人の負担に属する」支出に限られます(民法608条1項)。そのため、入居者Yが支出した費用全額について必ずしもアパートの所有者が会社Xに対して支払責任を負うとは限りません。

本件では、トイレの排水不良についてY自らが業者を依頼していますが、この修繕行為に正当性が認められるか否かによって会社X及びアパートの所有者の負担するべき費用も変わりうるものと考えます。

この点、民法上「急迫の事情があるとき」には、賃借人が自身で修繕することが認められているため(民法607条の2第2号)、問題の排水不良について修繕すべき急迫の事情が認められる場合には、そのような状況下においてYが採りうる修繕方法として相当な金額については、会社Xが負担すべきと判断されやすいものと考えます。もっとも、この場合でも、Yの注意義務違反によって過剰な費用を支払っている場合には、当該過剰分については会社Xも責任を負わないと考えられます。

他方で、急迫の事情が認められない場合には、本来は会社Xが修繕すべきものであったことから、会社Xが修繕していた場合に発生するコスト(会社Xが手配した業者の修繕費用)を基準として会社Xの負担額が把握されることとなるものと考えられます。

会社Xが支払義務を負う費用相当額については、原則、必要費としてアパートの所有者が会社Xに対して支払わなくてはならないものと考えられますが、会社Xの対応の不備により会社Xの費用負担が増大した場合などについては、当該過剰分についてアパートの所有者は支払責任を負わない可能性もあるでしょう。

以上より、アパートの所有者は会社Xに対して修繕費用相当額を負担しなくてはならない可能性が高いですが、会社Xが負担した修繕費用の一部については支払責任を負わない可能性もあります。

もっとも、修繕費用の負担については、アパート所有者と会社Xとの間の賃貸借契約に規定されていることがあり、その場合には会社Xからアパート所有者への必要費の請求の可否が当該規定に左右されることがあるため、契約書をご確認ください。

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