ニューズレター


2018.Mar Vol.40

賃貸物件で病死をした場合の対応について


不動産業界:2018.3.vol.40掲載

うちのマンションの一室で、ご高齢の借主さんがこの前病気でお亡くなりになったんです。幸いにも、亡くなってすぐにご家族が気づかれたので、特にご遺体が傷むということはなかったのですが、室内で死者が出たとなると、気持ち悪い感じがして、次の入居者の募集にも影響が出るんじゃないかと思い、家賃の減額なんかも検討しています。
この場合、亡くなられた入居者の連帯保証人に対して、家賃減額分を損害として、賠償請求等は行えるのでしょうか。請求できない場合、このことを次の入居者に伝えずに賃貸しても問題ありませんか。


自殺の場合とは異なり、前の入居者が病死した場合に、当該死亡そのものを根拠とした損害賠償責任の追及をすることは難しいものと考えられます。
一方、当該事実を次の入居者に伝えるかという点については、伝えなくても法的な責任が認められる可能性はそれほど高くないのではないかと考えます。

さらに詳しく

賃貸借契約において、賃借人が、賃貸物件内で自殺をした場合、貸主は、自殺をした借主の連帯保証人等に対して、当該自殺によって下落した賃貸物件の価値相当額について、損害賠償請求をすることができると考えられます。

これは、賃借人は、賃貸物件内において自殺することなく使用収益する義務を負っていると解されていることから、賃借人が賃貸物件内において自殺をした場合、賃借人に当該義務の違反が認められるということを理由にしています。

これに対して、人間も生物として、病気や寿命等で死亡することは通常生じうることであり、これが、生活の本拠である居住用物件で生じるということは極めて自然なことといえるでしょう。このような観点から、我が国の裁判例においては、自殺の場合とは異なり、病死等の自然死の場合には、賃借人に対する債務不履行等に基づく損害賠償請求は否定される傾向にあります。

例えば、東京地裁平成19年3月9日判決では、8月の借家内において、入居者が脳溢血で死亡した後、4日間程度放置された後発見された例で、「賃借人の老衰や病気等による借家での自然死について、当然に借家人に債務不履行や不法行為責任を問うことはできない」と判断しています。

一方、自殺の場合には、自殺後、一定期間において、同物件の次の入居希望者に対して、当該事実を告知すべき法的な義務があると考えられています。人の自殺や、事件による不慮の死が物件内にあったという事情は、一般的に人が嫌悪すべき事由にあたると解されており、当該物件を賃借しようとする人物の判断に影響を与える重要な事項にあたると考えられることから、このような法的な義務が肯定されています。

これに対して、賃貸物件内で自然死が生じたという事実の法的な告知義務の有無については、この点を直接的に判断した裁判例は少ないのですが、東京地裁平成18年12月6日判決では、問題となった部屋の階下の部屋で、半年程前に自然死があったという事情は、社会通念上、賃貸目的物にまつわる心理的欠陥に当たるとまでは言えないとして、当該部屋の入居検討時における法的な告知説明義務の発生を否定しています。

上記の債務不履行に基づく賠償請求の場合と同様に考えれば、賃貸物件内において人が病死し、あるいは、天命を全うして死亡するということは入居希望者として説明されるまでもなく、想定すべきことであると考えられます。すると、病死の場合であれば、次の入居者に対してその旨を告知しなくても、これをもって法的な義務違反と判断される可能性は高くないのではないでしょうか。

自殺の場合と異なり、病死や自然死の場合には、借主に対する賠償義務が認められにくい反面、貸主側の告知説明義務も否定されやすいものと考えられます。借主の死亡が生じた場合には、その原因はくれぐれも確認されるべきでしょう。

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