ニューズレター


2016.May Vol.53

年収約1000万円の従業員の管理監督者該当性が否定された事例~東京地裁平成27年6月24日判決~


2016.5.vol.53掲載

Ⅰ 事案の概要

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、平成23年6月16日から平成25年7月10日までに稼働した分の労働基準法所定の割増賃金及びこれと同額の付加金の支払を求めた事案です。

Y社は学生向けのマンションの入居募集及び管理の事業等を営む株式会社です。Xは平成23年4月1日、Y社に入社し、Y社東京本部の住設営業部長兼お客様サービス部長に就任し、同年12月以降は上記部長職に加えて、Y社東京本部の統括部長を兼務し、平成24年5月からは東京営業推進部長をさらに兼務し、平成25年7月31日にY社を退職しました。Y社における役職の無い社員の平均年収は322万円であるのに対し、Xは、Y社から約1000万円の年収を得ており、これは2名の代表取締役を含めたY社の社内順位で全社員約360名中11番目の高収入でした。

Xの請求に対し、Y社は、Xの権限・労働時間についての裁量・待遇等から、Xは労働基準法41条2号所定の管理監督者に該当するため、労働時間に関する規定の適用が除外されると主張しました。本件の主な争点は、Xが労働基準法41条2号所定の管理監督者に該当するかどうかです。

Ⅱ  東京地裁平成27年6月24日判決

(1)一般論

本判決は、まず、労働基準法41条2号が、管理監督者には労働時間等に関する規定を適用しないとしている趣旨について、「管理監督者が、当該事業の経営者に代わって労務管理を行う地位にあり、労働者の労働条件を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する者であって、このような者は、その権限故に自らの労働時間を自らの裁量で自由に定めることができ、また、地位に応じた高い待遇を受けることから、上記労働時間等に関する規定の適用を除外されても、同法の基本理念に反し、又は労働者保護にも欠けることにならないためと解される」と述べました。

その上で、「このような趣旨等に照らせば、管理監督者に該当するか否かを判断するに当たっては、その職位等の名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであり、管理監督者と認められるためには、①事業主の経営に関する決定に参画し、部下に対する労務管理上の決定権限を有していること(職務権限)、②自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していること(労働時間の裁量)、③一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること(賃金等の待遇)が必要と解するのが相当である」との一般論を判示しました。

(2)Xの職務権限について

本判決は、Xの人事面以外に関する権限について、Xが個別の案件について独自の判断で処理したことを裏付ける証拠がないこと、XがY社における施策ないし方針を提案する際に、Y社代表者らの指示によって行っていたこと、Xは、役員部長会議の上位の会議である経営会議に参加したことがないこと等から、Xが人事面以外に関して、Y社の経営に関する決定に参画していたとは認められないと判断しました。

また、Xの人事面に関する権限については、XはY社が管理する学生寮やマンションの管理人の採用権限があったこと、Y社の新卒採用の第1次面接を担当していたこと、Y社社員の人事評価を行っていたこと等から、Xは一定の人事労務管理を行う権限を有していたものと認定したものの、Xが下した人事評価とは無関係に、Xへの説明等もなくY社代表者らの決定によりXの直属の部下が減給された例が複数例あること等から、Xが有していた人事労務管理に関する一定の権限は、容易に覆され得るものであったと認定し、上記のような一応の権限を有していたことをもって、Xが管理監督者に当たるものとは認め難いと判断しました。

(3)Xの労働時間の裁量について

また、本判決は、Xの労働時間に関する裁量権の有無についても、Xは執行役員を除く他の従業員と同様、出退勤した際にタイムカードの出退勤ボタンを押すことを義務付けられており、直行直帰する場合も上司の承認を得ることとされていたことから、一般の従業員同様の出退勤の管理を受けていたものと認定し、Xが自己の労働時間を自らの裁量で自由に定めることができたとは認められないと判断しました。

(4)まとめ

本判決は、(2)、(3)で指摘した各点に照らせば、「原告(X)の職務権限は非常に限定的で、被告(Y社)の経営に関わる決定に参画していたともいえず、自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していたとも認められないのであって、原告(X)が、人事労務管理に関わる一応の権限を有していたほか、毎月15万円の役職手当を支給され、年収が約1000万円で、執行役員と同水準の待遇を受けていたこと(略)を考慮しても、なお原告(X)を労働基準法41条2号所定の管理監督者と認めるには足りないというべきである」と判示し、Y社に対し約1200万円の割増賃金と500万円の付加金の支払を命じました。

Ⅲ 本裁判例から見る実務における留意事項

労働基準法41条2号は、いわゆる管理監督者について、労働時間等に関する規定を適用しないと定めており、訴訟等において、当該労働者の管理監督者該当性が争点となることがあります。管理監督者に該当するかどうかは、本判決が判示したように、当該労働者の職位等の名称にかかわらず、①職務権限②労働時間についての裁量③賃金等の処遇等に着目し、実態に即して判断すべきであると考えられています。

管理監督者該当性が否定される典型例としては、名目上は管理職になっているため割増賃金が支払われていないが、経営に関する決定に参画する職務権限や労働時間についての裁量がほとんどなく、賃金も低額であるというケースがあげられます(「名ばかり管理職」と呼ばれることがあります)。本件は、そのような典型的なケースとは異なり、Xがある程度の職務権限を有し、Y社の他の従業員と比較してかなりの高収入を得ていたという事案ですが、本判決は、Xの管理監督者該当性を否定しています。

管理監督者制度を導入している企業においては、高額の割増賃金・付加金を請求されるリスクを回避するために、管理監督者とされている労働者が、①人事権や経営に関する決定に参画する権限をどの程度有しているか②タイムカード等で労働時間の管理をされていないか③社内の他の従業員と比較して権限にふさわしい賃金が支払われているか、といった点を今一度確認してみると良いでしょう。

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