ニューズレター


2016.Jun Vol.19

漏水事故発生!どこまで賠償したらいいの?


不動産業界:2016.6.vol.19掲載

居住用で賃貸している物件の水道管が詰まって、室内に水漏れが生じてしまったよ。
原因は私がちゃんと物件を管理していなかったことにあったから、迷惑をかけてしまった分は費用を負担しようと思うんだ。でも、入居者さんからは、汚損した家具の損害賠償、漏水事故対応に費やした日数分の休業損害、あと、大切にしていた時計が壊れたことに対する慰謝料とかいろんな費用を請求されていて…。
これ全部支払わなきゃならないのか?


賃貸人は、漏水事故と相当因果関係を有する範囲で、現実に発生した損害について、賠償義務を負います。
漏水事故によって家具が汚損したのであれば、家具の損害については相当因果関係を有する損害といえ、損害賠償義務を負うと考えられます。また、休業損害については、漏水事故に対応するために休業することを余儀なくされた場合は損害賠償の範囲に含まれると考えられますので、収入の減少部分について賠償義務を負うものと考えられます。ただ、休業損害については、何日休んでも良いという訳ではありませんし、慰謝料については、損害賠償義務が生じない可能性が高いですよ。


でも結構払わなければならないのだな……。
家具なんかは、最新の物に買い替えるための費用を請求されているんだが、まだ使えそうな物もあるのに、買替費用全額を支払わなければならないのか?


具体的な状況にもよりますが、漏水によって汚損した家具は、クリーニング等で汚損が回復可能な場合は当該クリーニング等の費用が損害として認められ、買い替えが必要な場合であっても損耗時点の時価相当額分が損害として認められるものと考えられます。したがって、買替費用全額についての支払義務は生じないものと考えられます。

さらに詳しく

物損について、現在、一般的に用いられている損害額を算定する際の基準は、損害が発生する前後の物の価値の差額であるとされています。

個別具体的な事案にもよりますが、漏水により家具が汚損したがクリーニングや修繕で回復できる場合は、クリーニング等の費用を支出すれば家具の価値を回復できると考えられるため、当該クリーニング等の費用分が「価値の差額」となるものと考えられます。また、家具が完全に使用できなくなり回復不可能である場合には、汚損後の家具の価値は0円になったものと考えられますので、当該家具の価格自体が「価値の差額」となると考えられます。ただし、家具は、漏水が生じた時点で既に一定の期間使用され、経年劣化等により価値が減少していると考えられます。したがって、新品の価格ではなく、損耗時点での当該家具の時価相当額が損害賠償の対象になると考えられます。

休業損害については、賃借人が漏水により休業せざるを得なくなった場合で、かつ、実際に収入減少の損害が生じていれば、減少部分が損害として認められると考えられます。例えば、賃借人が漏水による損害賠償請求について弁護士に相談し、そのために休業したとしても、弁護士との打ち合わせは仕事に差し支えのない時間帯に行うことも可能であり、賃借人が休業せざるを得なくなったとは言えないと考えられるため、損害としては認められない可能性が高いです。また、漏水により賃借人が休業を余儀なくされたとしても、実際に収入の減少が無ければ損害として認められないものと考えられます。

慰謝料とは精神的損害に対する賠償をいいます。物損事案においては慰謝料の支払義務が認められる程の精神的苦痛が生じることは少ないため、原則として慰謝料の支払義務は認められません。これが認められるためには、財産的損害の賠償だけでは償い得ないほどの甚大な精神的苦痛を被ったと認めるべき特段の事情が必要になります。例えば、墓石、位牌といったとても特殊なもので、これを失った場合に著しい精神的なダメージを負うことが当然といえるような物であれば慰謝料支払義務が生じる可能性もありますが、単に物に思い入れがある程度では慰謝料の支払義務は生じないものと考えられます。

仮に、賃貸人の責任で賃借人に物損が生じたとしても、その物を弁償する費用全額の支払い義務が生じる訳ではありません。また、物損以外の損害を請求された場合には、「実際に賃借人にその損害が生じているか」、「通常であれば、その損害が発生することがあり得るか」といった視点から、賠償義務の範囲を考えてみるとよいでしょう。

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