ニューズレター


2017.Jan Vol.61

組合に関するブログ記事等を理由とする更新拒絶は認められないと判断された事案~東京地裁平成28年1月29日判決~


2017.1.vol.61掲載

Ⅰ 事案の概要

Xは、Y(労働組合)との間で、定年に達した後引き続き1年間の再雇用職員労働契約を締結したところ、Yから、期間満了後の契約更新を拒絶されたことに関して、Yに対し、①更新拒絶をすることは許されないと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②Yの責めに帰すべき事由によりXの労務遂行が不能になったと主張して、同契約に基づいて賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から民法所定の割合による遅延損害金の支払並びに労使慣行に基づいて期末手当の支払をそれぞれ求め、さらに、③違法に契約更新を拒絶したと主張して、不法行為に基づいて、慰謝料等の損害金及びこれに対する不法行為成立日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。

なお、裁判所で認定された事実として、Xは定年に達する前からYとの間で複数の労働関係訴訟が係属していたこと及び XがYの社会的評価を低下させる内容のブログ記事及びコメントを掲載し、第三者がそのような内容をコメント投稿したにもかかわらずXがその管理義務を怠ったことが不法行為に当たるとしてYがXに対して損害賠償を求めるという別件の訴訟が提起されており、当該別件は第一審でYの請求棄却、控訴審ではYの控訴棄却の判決が言い渡されていた、という経過がありました。

Ⅱ  東京地裁平成28年1月29日判決のポイント

1.労働契約の更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないといえるかについて

(1)Xが作成したブログ記事(以下、「本件ブログ記事」といいます。)の内容がYに対する誹謗中傷を繰り返すという不法行為に該当し、Xは雇用契約上の誠実義務違反に該当するから、本件の更新拒絶に客観的に合理的な理由が存在するとのYの主張について、裁判所は、本件ブログ記事及びこれに対するコメントへの措置についてそれぞれ不法行為の成否を検討しました。
裁判所は、本件ブログ記事はYが腐敗した組織であり、違法行為を行ったかのような印象を一般人に与え、Yの社会的評価を低下させるものであると評価しつつも、違法性が阻却されるとして、各記事の不法行為性を否定しました。

(2)裁判所は違法性阻却の点について、かつてYの専従の組合員たる執行部員の地位にいたXは、本件ブログで、Yの人事やX自身に係属していた労働関係訴訟等の経過を公表して、Yの民主化、健全化を図ることに主眼があったといえることや、Yが海運、水産港湾業務等に従事する船員及び水際労働者等で組織された業界内唯一の労働組合であり、各外航船舶会社や船会社等との団体交渉等を担っている組織といえるといったことから、多くの国民の生活に影響を及ぼし、適正な運営を期待されたYについて、その運営に関する情報を公表する内容であるから、公共の利害に関する事実にあたり、その目的が専ら公益を図ることにあったと判断しました。
また、本件ブログの記事の内容を個別具体的に検討し、Xの意見ないし論評の基礎とした事実が真実であるとの認定の下、意見ないし論評としての域を出ないとして、違法性阻却を認めました。

(3)さらに、裁判所は、Xは本件ブログ記事のコメント欄に第三者を装って投稿したとは認められないとの事実認定を前提に、Xが第三者が投稿したコメントを削除する等の措置を講じなかった不作為について不法行為の成否を個別具体的に検討しました。
本件では、コメントの内容自体によって被告の社会的評価を低下するものではない、又は社会的名誉を低下させると評価できるものについてもXにおいて第三者の投稿したコメントで適示された事実が真実でないことが明らかであるかというべき事情が見受けられないことから、Yの名誉を違法に侵害していることを知ることができたと認めるに足りる相当な理由は存在していたとはいえないとして、Xの不作為に不法行為は成立しないと判断しました。

2.期末手当支払に関する労使慣行が存在し、これに法的効力が認められるか否かについて

裁判所は、支給率が必ずしも一定ではなかった事実や期末手当の具体的な支給額は各半期の勤務時間に応じて決められるというYでの実態等から、X主張の労使慣行は認められないと判断しました。

3.本件における労働契約の更新拒絶が不法行為を構成するか否かについて

裁判所は、本件の更新拒絶が許されない結果、更新拒絶後の賃金請求が認められ、これによってXの経済的損失は補填されることから、他に特段の事情がない限り本件の更新拒絶を根拠に慰謝料請求権を認めることはできないと判断しました。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

本件ではYのXに対する更新拒絶の相当性について、主に(ア)Xによる本件ブログ記事の作成が不法行為(名誉棄損)に当たるか否か、(イ)本件ブログ記事に投稿されたコメントをXが削除する等の措置を講じなかった不作為が不法行為に当たるか否か、というブログを基点としたXの不法行為の成否で検討されました。

(ア)Xによる本件ブログ記事の作成が不法行為(名誉棄損)に当たるか否かについては、いわゆる名誉棄損の成否に関する判断枠組みの下で検討がなされました。このような法律構成の操作は、勤務先の社会的評価を下げるようなブログ記事の作成やSNS等での書き込み等といった事案で広く適用されると考えられ、実務上参考になるものといえます。

また、本件の特殊性として、そもそもXがかつてYの中央執行役員を務め、副組合長選挙に立候補する等の主導権争いに関わっていたこと、Yが船舶関係の業界唯一の労働組合であり、Yの体制をめぐる議論が業界内部を中心とした影響力が強いであろうと評価されたことが、名誉棄損における違法性阻却への判断に作用したものと理解できます。

このように本件では更新拒絶前後の事実関係やY内部の実態に踏み込んだ上での判断がなされておりますので、見通しを立てていくには、ブログ作成者は誰か、作成した記事の内容はどのようなものか、記事に表れている事実は真実か否か、使用者とブログ作成者との関係(社歴や労使関係紛争の有無)、使用者の業種、使用者が属する業界での影響度等、個別具体的な事情を収集、整理して、吟味検討する必要があるといえるでしょう。

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