ニューズレター


2022.Dec vol.97

落雪被害と請負業者の責任


不動産業界:2022.Dec vol.97掲載

当社が建築した物件(以下、「本件建物」といいます。)の駐車場の隣には、本件建物所有者の自宅があります。所有者の自宅屋根に急勾配かつ太陽光パネルが設置されており、降雪量の多い地域であるため、所有者は、落雪の心配をしており、当社が本件建物を建築している際に、当社の従業員に落雪の相談をしていたそうです。

そして、昨年12月の記録的大雪により、所有者の屋根に積もった雪が駐車場の賃借人の自動車に落ち、自動車が損傷してしまいました(以下、「落雪被害」といいます。)。

そのため、所有者は、落雪の相談をしたにもかかわらず、①駐車場を設置した当社に第三者の権利を侵害しないように配慮すべき注意義務に違反したこと、また②落雪防止措置を講じるなどの説明を行わなかったことを理由として、落雪被害の損害を当社が賠償すべきであると主張しています。

所有者の言うとおり、当社が責任を負うのでしょうか。


①本件建物の駐車場の設置それ自体を、貴社の請負契約上の注意義務違反とする主張は、認められないものと考えられます。

また、②貴社に請負契約上の説明義務違反があったと判断される可能性は、高くないものと考えられます。

さらに詳しく

1.請求の根拠について

所有者の法的請求の根拠は、建築請負契約(以下、「本件契約」といいます。)において、貴社に注意義務違反及び説明義務違反があったことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条本文)であると考えられます。

2.注意義務違反について

所有者は、貴社が落雪のおそれがある所有者の自宅の隣に、本件駐車場の設置計画をしたこと自体が貴社の注意義務違反であると主張していると考えられます。

しかし、土地工作物責任に関する裁判例ですが、「建物所有者は、建物と隣地との位置関係を前提として、屋根に雪止めを設置するか、そうでなければ、雪が降り積もった場合には雪下ろしを行う、あるいは、このような危険性があることを被害者に伝え、駐車車両の位置を変えてもらうなど、落雪による被害の発生を防止するための措置をとるべきところ、何らの措置もとらなかった」として、建物所有者に対する修理費用の賠償請求を認容しました(東京地判令和元年12月24日)。

つまり、裁判実務上、建物所有者は、本件建物の屋根に雪止めを設置したり、大雪の際には雪かきをするなど、駐車場への落雪を防止する措置(以下、「落雪防止措置」といいます。)を積極的に講じることを求められているものと考えられます。

そのため、落雪被害の発生は、請負事業者がその回避について責任を負うものではなく、所有者が落雪防止措置を講じなかったことに起因するものと考えられるため、駐車場の設置それ自体が貴社の注意義務違反にはならないものと思料いたします。

3.説明義務違反について

次に、貴社が所有者に対し落雪防止措置をする必要があること等を説明しなかったことが貴社の説明義務違反を構成するとの主張が考えられます。

本件類似の事案で説明義務違反が認められるかどうかの判断基準として、判例上確立されたものはないと考えられますが、少なくとも、契約時においてそれぞれの当事者が有していた認識内容から、当事者に一定の信頼が生じていたことが、説明義務違反の前提となるものと考えられています。

本件に照らすと、所有者が貴社と請負契約を締結した際に、駐車場に落雪事故が生じない(それゆえ落雪防止措置を採る必要はない)との信頼を貴社が所有者に生じさせていたかが、一つの考慮要素になるものと考えられます。

この点は、本件契約時、駐車区画についてどのようなやりとりがされたのかという事情にもよりますが、他方で、本件建物の屋根の構造等の外観上明らかな事情から、本件契約締結当時、対象地域の例年の降雪量や降雪の程度によっては、本件駐車場に落雪があり、駐車している車に損傷が生じる危険性がある点については、当事者の共通認識があったと認められる可能性が高いものと思われます。

そもそも、駐車場ではない計画にしたとしても、例えば、人が通る可能性があれば落雪時の事故が発生する可能性はある以上、所有者の落雪防止措置義務は否定されないと考えられます。

これらのことを前提とすれば、本件建物の所有者としては、隣地や本件建物に雪止めを設置したり、大雪の際には雪下ろしをする等、落雪防止措置を講じなければ、落雪事故が発生する危険性があることは、当然認識すべきであったと判断される可能性が高いものと思われます。

そうすると、所有者に上記のような信頼(落雪防止措置を採る必要はないとの信頼)が生じていたとは考えられず、貴社が、本件契約時、所有者に対して落雪防止措置が必要である旨を説明する義務があったとされる可能性は高くはないと考えられます。

なお、所有者として、貴社に落雪による被害の防止を希望するのであれば、建物の建築時に被害防止のための設備等を発注しておくことが適切であったと思料いたします。

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