ニューズレター


2025.Jun vol.127

賃料増額請求について


不動産業界:2025.Jun vol.127掲載

私は、所有するマンションを長年同じ賃借人に貸していますが、最近、物価が上昇し、固定資産税額も増加しており、近隣の同程度の物件の賃料も上昇しています。これらの事情から、私は、現在賃貸している物件の賃料を引き上げたいと思い、賃借人に事情を説明したところ「こちらも物価上昇で苦しい」「一度約束した賃料を増額することはできない」として、増額を拒否されてしまいました。このような状況で、マンションの賃料を増額することはできないですか?


賃借人が増額を拒んでいる場合でも、現行の賃料が不相当となっていると認められる場合には、賃料増額請求が認められます。

賃料増額請求が効力を生じるためには、賃料増額請求の意思表示を貸借人に到達させることが必要です。また、賃料増額請求には“調停前置主義”が採用されており、訴訟の前に調停手続きを経なければならないことに注意が必要です。

裁判においては、裁判所が様々な事情を総合的に判断し、相当な賃料を算定します。多くの事案では、裁判所の選任した鑑定人による鑑定評価を踏まえて相当賃料が判断されることになります。

さらに詳しく

1 賃料増額請求の法的根拠と手続き

借地借家法には賃料増減額請求に関する規定があり(借地の場合は同法11条1項本文、借家の場合は同法32条1項本文)、賃料が不相当になった場合に、相当な賃料に変更する権利が契約当事者に認められています。具体的には、借地借家法32条1項本文では「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と定められており、考慮要素として、①負担の増減、②経済事情の変動、③近傍同種の建物の借賃(賃料)と比較して不相当という3つが挙げています。ただ、これらは例示にすぎないと解されており、最終的にはその他の様々な事情を総合考慮した上で、相当賃料額が判断されます。

賃料増額請求は形成権であり、その効力が生じるためには、賃料増額請求の意思表示が相手方に到達したと認められることが必要です。単に増額交渉を持ち掛けているだけでは賃料増額請求の意思表示があったと認められない可能性もあります。

そこで、後に紛争が生じた場合の証拠として備えるべく、賃料増額を求める意思表示を明確に記載した書面を内容証明郵便で郵送する方法で通知することが推奨されます。

賃料増額請求をした後は、まずは裁判外の交渉によって賃料増額ができないか、賃借人と交渉をするのが一般的なケースです。もっとも、交渉により解決ができない場合には、裁判所の手続で紛争解決を図ることが必要となります。ただ、賃料増額請求訴訟を提起する前に、調停手続を経る必要があります(民事調停法24条の2、調停前置主義)。調停を経ずに訴訟を提起しても、裁判所はその事件を調停に付することになるため注意してください。

2 裁判所による相当賃料の判断

賃料増額請求訴訟においては、多くの場合、賃料が不相当であるかどうか、相当賃料がいくらか、といった点が重要な争点となります。ただ、これらの争点につき判断するには、不動産鑑定評価基準等の不動産鑑定に関する専門的知識が必要です。そこで、裁判所は、争点についての判断資料を得るべく鑑定人を選任し、その鑑定結果を斟酌して判断することが一般的です。

鑑定人は、不動産鑑定評価基準に基づき、継続賃料の評価を行います。継続賃料の評価は、通常、①差額配分法(現在の賃料と正常賃料との差額を貸主・借主双方に適切に配分して賃料を算出する方法)、②利回り法(不動産の利回りを基にして賃料を算出する方法)、③スライド法(物価指数や地価の変動率を基に賃料を算出する方法)等の複数の手法を組み合わせて総合的になされます。裁判鑑定結果は裁判所の判断に大きな影響を与えることになります。

このように、賃料増額を裁判により実現するには、相当の時間と費用がかかることが想定されるため、裁判外での交渉や調停で解決をすることが望ましいといえます。もっとも、交渉にも、賃料増額にかかわる専門的知識が必要となります。賃料増額に関するトラブルの際は、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。

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