ニューズレター


2025.May vol.126

強風により建物の窓枠が外れ入居者所有車両が損傷した場合の賠償責任


不動産業界:2025.May vol.126掲載

当社は、オーナーからアパートの一括借上げを行って入居者に転貸しているのですが、今回、強風によりアパートの窓枠が外れて、入居者の車にぶつかり傷をつけてしまうという事故が発生しました。

当社としては、今回の事故は、強風という自然的な原因で発生したものであるため、当社に管理不備はないと考え、オーナーに対して車両の修理費用のお支払いをお願いしましたが、オーナーは、当社に管理の不備があったのではないかと支払いに難色を示しています。

今回のような場合、当社又はオーナーのいずれに責任があるのでしょうか。


本件において、窓枠の「設置又は保存に瑕疵」がある場合には、賃貸人である会社は、アパートの占有者として、車両の所有者に対して、窓枠の落下により発生した損害を賠償する責任を負う可能性があります(民法717条1項本文)。

一方、賃貸人が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は、アパートの所有者であるオーナーがその損害を賠償することとなります(同条ただし書)。

以下、詳しく見ていきましょう。

さらに詳しく

「土地の工作物」の「設置又は保存に瑕疵」があることによって他人に損害を生じさせた場合には、当該工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負います(民法717条1項本文)。

一方、占有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は、所有者が損害賠償責任を負うこととなります(同項ただし書)。

まず、アパートに設置されている窓枠は、建物の一部として「土地の工作物」にあたると考えられるところ、当該窓枠の「設置又は保存に瑕疵」があったかどうかが問題となります。

ここでいう「瑕疵」とは、当該工作物が通常有すべき安全性や性能を欠くことをいいます。

具体的には、当該窓枠について、風により外れないように設置されていたのかという点が問題となります。

特に、本件でのアパートの窓枠は、屋外に設置されるものであることから、通常想定される程度の風が吹いただけでは外れない程度の強度を有していることが求められると考えられます。

本件では、窓枠の具体的な設置状況が明らかでないものの、窓枠が外れた日の風の強度が、通常想定される程度の強風であった場合には、それに耐えられなかった窓枠は、通常有すべき安全性を欠いていたと評価せざるを得ず、「瑕疵」があったとして損害賠償責任を負い得るものと考えられます。

一方、当日の風が、通常想定すべき強度以上の風であった場合には、「瑕疵」があったとは評価しがたいものとして、損害賠償責任を負わないと考えられます。

次に、窓枠の設置について「瑕疵」があったとしても、入居者の車についた傷が、窓枠が落下してぶつかったものでなければ、「瑕疵」と損害との間の因果関係が認められず、管理会社又はオーナーに損賠賠償責任が生じないと考えられます。

仮に、入居者の車についた傷が窓枠の落下によるものであれば、賃貸人は、建物の占有者として、「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」といえない限り、損害賠償責任を負うものと考えられます。

ここで、「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」といえるには、占有者が、損害の発生を現実に防止する処置を具体的に講じていたといえる必要があるとされています。

本件においては、賃貸人である会社による具体的な物件の管理状況が明らかではありませんが、賃貸人が行った建物点検の頻度や内容が適切であれば、損害の発生を現実に防止する処置を講じていたと判断される可能性はあり、その場合には、発生した損害賠償責任については、所有者であるオーナーが負うと考えられます。

一方、賃貸人が、上記「瑕疵」を見落としていた等の事情があった場合には、「必要な注意をした」とまでは評価できないとして、賃貸人が、損害賠償責任を負うものと考えられます。

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